僕の彼女はハムスター: 2008年8月アーカイブ


あら、タク、もう起きたの?
いつもは寝てばっかりなのに。


こ~ら!おきなさい、タク。

 

タク、だーめ。

 

あはは・・・

 

静流・・・

 

・・・たーく

 

「起きろ~」

 

「ねぇねぇ起きてよ」

 

朝日がまぶしい。
とっても気持ちの良い朝だ。

まるで昨日の嵐が嘘のようだ。

 

そう、朝だ。
今日は土曜の朝だ。

 

今日は土曜の朝で、まだ時計は7時半だ。

 

「タク、トイレ」

 

目の前の人の言葉を喋る「けむくじゃら」をつかんで、ボーっと考える。

 


なんだ、まだ目が覚めてないようだ。
大きな毛玉が喋っている。

 


そう思い、ばふっと布団に横になる。

 

と同時に、

 

ぐがっ!!?

 

声にならない。

 

どこかの誰かが鼻の穴を引っ張ったようだ。

 

誰か?

 

決まっている。

 

エリーだ。

 


「タク、トイレトイレ!!」

 

 

どこから上がったのかわからないがベッドの上でぴょんぴょん跳ねて叫んでいるエリーを見て、
仕方なくトイレットペーパーを用意し始めた。

 

ふぅー。

 

一息ついたエリーをほったらかしでベッドの上でごろんと横になっていると、どこからかゴソゴソという音がする。
そう、それはベッドに隣接する本棚の裏辺りから。

 

それからしばらくして音がしなくなったかと思うと、ポフっという音が聞こえて、何かが足元をうろついている。

 

体をよじ登るエリー。

 

とりあえず無視。

 

眠い・・・。

 

エリーは横になっている俺の耳元までやってきて

 

「ねぇ、静流って誰?」

 

ぶはっ!

 

予想外の言葉にマンガのように吹き出してしまう。そしておもむろに起きて

 

「お前はどっからベッドに上がってくるんだ!?」


「そんなの決まっているじゃない!
登るといったら本棚の裏に決まっているでしょ!
そこにドラマがあるのよ!!」


・・・しらねーよ。


なんだ・・・ハムスターの常識はわからん。


「とにかく、寝させてくれ、眠い。」

 

「暇」


即答!


「・・・聞いていましたか?」

 

「だから、暇なのよ、暇!
あんたこそ聞いていたの!?」

 

「え~っと・・・」

 

「私は暇なの!
とにかく遊びたいの!!」

 

「ヒマヒマヒマ~!!」

 


・・・埒があかん。

 

台所からザルを持ってきて、うるさいエリーにかぶせた。
上には重しになるように雑誌を乗せて出れないように保険。


サラダボウルでも良かったのだが、さすがに窒息死は罰が悪いので、空気の通るものにした。

もちろん、エリーがうるさいのは言うまでもないが、雑音くらいなら耐えられる。
さくっとかぶせてしばらくの眠りについた。

 

「こら~!!だせ~~!!」

 

睡眠中

 

「だせ~!!バカタク!!」

 

睡眠中


「アホ~!!」


睡眠中

 

「変態~~~~~!」

 

睡眠中・・・

 

「ロリコン(ボソッ)」

 

す・・睡眠中・・・

 

「コスプレ好き」

 

す・・・すいみん・・・ちゅう

 

「ナース萌え」

 

す・・・

 

「鼻フェチ」

 


・・・いろいろ突っ込みたかったのだが、返事したら負けだと思い耐えた。
とにかくこいつの語彙力はいったいどうなっているんだろうか。


そして、数時間が過ぎた。

「ご・・・ごめん。」

横で謝るハムスターを横目にひっくり返ったサラダボウルと、

 

水のかかった携帯をどける。

 

まさか、携帯まで被害が及んでいるとは思いもせず。

 


はぁ・・・

 

ため息がこぼれる。

 

「・・・ごめん。」

ハムスターの表情は全くわからんのだが、声のトーンが謝罪の様子を表していた。


いいよ。そろそろ携帯を変えようと思っていたし。


明日携帯を変えに行くとするか・・・って今日か。

 

そんなこんなでもう4時を回っていた。
とりあえずてきぱきと片付けて、カーペットをドライヤーで乾かす。

 


「そろそろ寝るぞ。
ほらぬれてんだろ?これで身体を拭け。」


さっと投げたタオルを器用にキャッチをして、エリーはころころ転がる。

 

俺は片付けた後、ドライヤーで自分の髪を乾かした。

 

コロコロコロ~

 


コロコロコロコロ・・・・

 


しばらく転がっていたエリーがうずくまってふと止まる。


・・・ぐじゅ。

 

ドライヤーの音でよく聞こえない。

 

スイッチを切り、エリーの方を見ると・・・。

 

「ねぇ・・・ぐじゅ・・・私捨てられる・・・?」

 

泣いてる。

 

顔をあげるハムスター
多分人間だったら泣き崩れた顔をしているんだろう。
相変わらず表情が全くわからん。


ただ・・・声は恐怖と後悔の念が混ざっている。

 

そんな気がした。


無理もない。
ペットショップから飼われた先がまさかのエサ。
隙を見て逃げたもののいくアテもない。
さらに外は大雨。


こんな雨の中投げ出されたらいくらなんでも・・・

 


「大丈夫、心配すんな。」

 


一言声をかけ、そっと頭に指を乗せた。

 

「うう・・・うわ~ん」

 

エリーは泣いて、泣いて、泣いた。
強がっていたもの全てを吐き出して・・・。
そして泣き疲れて寝てしまった。


そっとエリーを赤いクッションの上に移し、俺も寝ることにした。


外はどうやら雨はやみ、天気のよい土曜日を示しているようだった。


っていうかもう5時かよ。

時間は午前3時。


エリーは何をしているかというと、ゴソゴソと動き回っている。


もともとハムスターが夜行性のため、とても元気だ。
積み重ねてある本の隙間を飛んだり跳ねたり。

 

「ふう・・・
それにしてもきったないわね。」

 

ほっとけ。


10分動いて5分休憩くらいだろうか。


俺はそんな動くエリーを無視し、紅茶を飲みながら映画を見ていた。


「ねー」


無視


「ねーねー」


無視

 

「タクってコスプレ好きなの?」

 

ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!

 

思わず口に含んだダージリンティーを吹き出してしまった。

 

振り返るとDVDケースを持ったエリーがいる。


「おい、返しておけコラ。」


「タク、あんた部屋の中掃除したら?
汚すぎるわ。体がホコリだらけよ。」


DVDケースを持ったハムスターに言われるほど屈辱なことがあるだろうか。
何のプレイだ、言葉攻めか。


「うるさい、ほっとけ。
ほら返せ。」


エリーからDVDを取り上げ棚に入れる。

 

「タク、お腹空いたわ。」


たった1時間前にあれだけたくさん食べたばかりだが、このハムスターはなんてことを言うんだろうか。
食料なんてあるわけがない。


「今日はもうない、俺はシャワー浴びて寝るぞ。」


「あ、私も浴びる!
ホコリくさいし。男臭いし。」


「何だその男臭いって。」


俺が言い終えないうちに次の言葉を言う。


「誰もあんたと一緒に浴びるわけじゃないからね!!
私の入るお風呂を用意して!」


この娘はなんて無茶を言う。


というわけで、しぶしぶ大きめのサラダボウルにぬるめのお湯を入れたものを用意した。


「覗いたら殺すから!!」


常に裸のハムスターに突っ込もうか迷ったのだが、めんどくさいのでそそくさとシャワーへと消えた。

 


そしてシャワーから出た俺が見た光景は、ひっくり返ったサラダボウルと、ぬれたカーペット。
そして、ビショビショになって動き回るエリーの姿だった。

 

もう少し考えて用意するべきだと後悔した。

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