僕の彼女はハムスター: 2008年7月アーカイブ

変な光景だ。


目の前で麺を一本食べているハムスター。


どうしても不思議な光景を目にして、聞かずにはいられない。

 

「エリザベス・・・おいしいか?」

 

「ないよりマシね。
そもそも味が濃い。柔らか過ぎ。」

 

エリザベスにはどうやらおいしいと言う単語がないみたいだ。
その後に開けたフルーツ缶も一通り食べて、

 

「まあまあね。」


と一言。


もちろん一缶も食べれるわけもないので、残りは俺が食べたわけだが。
なんだか、俺が知っているハムスターとはどうやら異なるような気がする。

もうエリザベスをハムスターと考えるのはやめよう。

 

食べるだけ食べたエリザベスは

 

「ねぇトイレ・・・トイレどうしたらいい?」

 

これは困った。
さっきまでと違う口調のため、何だか変な感じだ。


「ああ・・・どうしよう。」


もちろんハムスターを飼う設備なんてあるわけないので、


「・・・とりあえず新聞とってくる。」


玄関にたまっている新聞と、トイレットペーパーを持ってきた。
持ってきたトイレットペーパーをくしゃくしゃにして、新聞の上にたくさん乗せた。

 

「ちょっと、絶対見ないでよね!!」
トイレットペーパーを敷き詰めた簡易トイレでわめくエリザベス。


変な話だ。
後ろではハムスターがトイレをしている。

ホント声だけ聞いていれば、後ろで女の子が着替えをしている、意地悪でとっても見たくなるシチュエーションなんだが、現実はハムスターだ。

これが理想と現実とのギャップだろうか。


「まだだからね!!」


「誰が見るか。」


「もう、いいわよ。」


振り向いたら実は綺麗な女性だったという夢物語を今でも期待しているが、ハムスターだった。
とりあえず、トイレットペーパーはトイレに流して、汚れた新聞紙はビニール袋につめた。


汚れた新聞を分けていたその姿を見てエリザベスが、


「ちょっと、トイレの後なんてじっくり見ないでよ、変態。」


確かにおしっこのついた紙をまじまじと見ていたら変態だが、勘違いしないでもらいたい。
ハムスターだ。小動物だ。

 

「変態って、おい!俺の名前は拓哉だ!
いい加減覚えろ!」


「じゃあ、タク、見ないで。」


カタコトの日本語のように細切れに言われた。
タメ口だ。

 

なんだか馬鹿にされるのもイヤなのでちょっと言い返した。


「じゃあ、エリザベスって毎回言うのも長ったらしいから略して「ザベス」って言うことにしよう。」

 

「ザベス~♪おいで~♪」

 

「キモイ!うざい!変態!ネーミングセンスゼロ!!」

 

冗談の通じないハムスターだ。
言えば言うほど心に傷を負っていくのがわかった。

 

結局エリザベスに関してはエリーと呼ぶことに、俺のことはタクとなった。

 

冗談でご主人様と呼べと言ったりもしたんだが、本気でエリーにひかれてのは言うまでもない。

 


「名前?
そういうあんたの名前はなんていうのよ?」


何だかイライラする聞かれ方だ。
ハムスターとタメ口・・・むしろ相手の方が上からの口調だからだろう。
しかし、そうも言ってられないので、落ち着きを取り戻し何とか冷静に話を進めようとした。


「俺の名前は藤島拓哉(ふじしまたくや)
あなたの名前は?」

なるべく丁寧に丁寧に聞いた。


「私?・・・名前はないわ。」


「勘違いしないでよ?人間につけられた名前がないってことよ。
みんなからはエリザベスって呼ばれていたわ。」


ぷっ!!
思わず笑ってしまった。

そしてすぐに後悔する。

いてぇ!!!!!!!


ものすごくピンポイントで「すね」を噛まれた。


「何がおかしいのよ!!」

 

何とか笑いと痛みを耐えて、話を戻す。


「で、エリザベスはどうして外にいたんだ?」


「逃げてきたのよ、前の飼い主から。」

 

 

その後しばらく生い立ちを聞いていた。


話してくれた内容をまとめると、生まれはペットショップ。
以前飼われていた家ではヘビのえさの一匹だった。
そして隙を見て逃げてきたということ。
そのため2日ほど何も(まともなものを)食べていないらしい。

 

で、今ご飯を要求されている。


気付けばもう夜中の2時を回っている。
明日が土曜日であることが唯一の救いか。

 

「ちょっと、何か食べるもの頂戴よ!」

 

ワガママ全開のエリザベスがキッチンの俺に対し大声をあげる。


「変なもの出したら承知しないんだから!!」

 

ちょうどお腹が空いたのもあり、俺も夜食を食べることにした。

 

ところがだ。
キッチンのどこを見てもハムスターが食べれそうなものなんてない。
そもそもハムスターが食べるものってなんだ??


ひとまず、いろいろ探してみてわかったことは家には保存食(レトルトとも言う)しかない。
ま、一人暮らしの男の家なんてそんなもんだ。


冷蔵庫には賞味期限切れの調味料と、3ヶ月前の卵。
その他もろもろ(笑)
はっきり言って、見なきゃよかった生モノまで出てきた。


「笑えんな。」

 


さて、とりあえずカップ麺のお湯を沸かしつつも、他にも何かないか探してみることにした。

 

探しに探した結果が缶詰。
フルーツ缶。


これで許されるかどうかわからんが、一応自分の分のカップ麺と、エリザベスの分のフルーツ缶を持って部屋に戻った。

 

戻ると、テレビの音だけが聞こえる。


人間のお尻がすっぽり入る赤いビーズクッションのど真ん中で、エリザベスはもふもふと寝ていた。


起こさないようにそっとテーブルの上にカップ麺とフルーツ缶を置き、とりあえず夜食をとることにした。


「まぁ・・・ハムスターもこれだけ可愛いと飼いたくなるよなぁ」


あまりにも素直な心から出た言葉だった。

 

そうつぶやいた。つぶやいてしまった。

 

「じゃあ、しばらくここにいるわ!!」

 

・・・ハムスターのタヌキ寝入り。

 

ものすごくしまった感があったのは気のせいだろうか。

こいつは一筋縄ではいかない・・・悟った。

 

ハムスターだ。


呆然と立ち尽くす俺に対して・・・


「ちょっと!聞こえてんの?」


聞こえない。


「ちょっと!!」


何も聞こえない


ガブッ!!


「いてぇ!!!!!!!!」


右足の親指から赤い液体が勢いよく流れている。
これは夢じゃないということがよ~~~~~~~~~~~~~~くわかった。


「いてぇじゃねぇか!」


「聞こえているなら返事くらいしなさいよ!この変態!
オタク!!」


「誰がオタクでネクラで変態だ!!」


「ネクラなんて誰も言ってないじゃない!」


確かに、自虐的に走りすぎた。


「それにしても驚いたぁ。
あんた私の言葉がわかるの?」


なんて答えれば良いだろう・・・目の前にいるハムスターの言葉がわかる自分。
ひとつぐらい特技があればと思ったが、まさかの動物との会話。
動物王国むつ○ろうさんもびっくりの特技だ。

しかも何だ。
目の前で喋っているハムスターはとってもワガママそうな女性。

いや、女性という表現が正しいかわからん。
おんな・・・?メス??


「ちょっと、誰がめちゃくちゃ可愛いけどワガママよ。」


どうやら口に出してしまっていたらしい。


が、変な枕詞がついてもはや自分の気持ちでもなんでもない。


「ま、いいわ。
ここで雨宿りさせて頂戴。」


何がいいんだ。

勝手にすすめるハムスター。
どうやら本当にワガママっぽい。


「おいおい、勝手なこと言うんじゃない。
お前何者だ?」


「女性に向かってお前って失礼ね!
あんた、他でもそんな感じで喋っているんじゃないの!?」


・・・っと痛いところを突かれる。

「くっ・・・うるさい!
ハムスターごときに言われる筋合いはない!」


「ふん!人間ごときに答える筋合いなんてないわ!」


何だ、このハムスターは・・・あ~いえばこ~いう。


「出て行け!とっとと出て行け!」


「何よ!この大荒れの天気の中、女性を一人放置するの?
最低のオトコね!変態!」


「おい・・・ちょっと待て!変態は関係ないだろう。」


とは言うものの、外は確かに至上類を見ないほど大荒れの天気。
窓の外は雨のせいで全く見えない状態。


「仕方ないな。」


ため息をつくと、ひとまず冷静に取り繕った。

 

「で、名前は?」


これがハムスターとのまともな?会話の始まりだった。

6月。
外はジメジメして毎日うっとおしい。
早く夏がきてほしいと常に願う日々だった。


今日の夜から明日の朝にかけて台風が通るらしく、外は風が強い。

 

俺も荒れていた。

 

今日も友人と仕事終わりに飲んでいた。

 

親の会社の子会社に2年前に就職。

もともとそんなところに就職するつもりはこれっぽちもなかったが、就職活動でもらった内定先がブラック企業だったという情けない話であって。
親は自分の会社に入れるのも考えたみたいだが、なんだかんだ最終的に子会社へ。


感謝している。
当時の彼女も応援してくれた。


しかし、その彼女も自分が就職するときには離れた土地への就職を望み・・・そして仕事に打ち込みたいという理由で先日別れを告げられた。

それ以降毎日友人を連れて飲み倒している。

 


しっかりしなさい!もっと自分のこと考えなさいよ!
そんなんだから親がいないと何もやっていけないんだから!!


常々聞かされていた言葉が痛く、友人に毎日のように飲みながら愚痴っていた(笑)
嫌いじゃない、好きだけど別れるなんて納得なんていかない、それが男って生き物だ。

 


ったくふざけんな~!

 

そう叫んでアパートの扉を開けるのが最近の日課になっていた。

 

アパートの扉を開けると風が勢いよく抜けてきた。


ん?開いてんのか?

 

そっと部屋を覗くとベランダが少し開いていた。
一瞬泥棒かと思ったが、そういえば昨日の夜から暑くてベランダを開けっ放しだったんだっけ。

 

そんなことを考えていたら突然天気が変わった。

 

大雨の予感


雨、雨、雨

 

テレビをつけると、台風情報の緊急ニュースがやっているくらいだ。
一気に酔いが醒めて窓を閉めた。
不思議だわ、こういう時って。

 

台風か・・・最低だな。
ボソッとつぶやいたそのときだった。

 

ホント最低よね、もう少しで流されるところだったわ

 

前言撤回。まだ酔っているみたいだ。
一人暮らしのアパートに、女の人の声が聞こえた。

 

辺りを見渡すが、もちろん誰もいない。

 


10畳のワンルームマンション。
あるのはテーブル、テレビ、棚、そしてベッド。
目の前にはキッチンが見えるが、もちろんキッチンに人が隠れる場所があるわけない。

クローゼットは開けっ放しなので、誰もいないことは一目瞭然。

 

誰もいない。

 

しかし、確実に声がした。

 

あかん・・・今日は飲みすぎた。
幻聴が聞こえる。


ベルトを軽く緩め、スーツのまま、「ばふっ」とベッドに倒れこんだ。


はぁ・・・逃げてきたは良いけど、これからどうしよう
入った先の住人は何だか暗そうなヤツだし

 

幻聴じゃない。
誰かが喋っている。
しかも俺のことか。


大体部屋がこんなに散らかっている男なんて、女がいない証拠よ。


おい


はぁ・・・ここも台風が過ぎ去ってから出て行こうかしら。
こんなところにいたら体調崩してしまうわ。

 

誰だ!!
思わず気持ち悪くなって叫んでしまった。

 

声が止んだ。


雨風だけがうねりをあげる。


誰が暗そうなヤツだって?
出て来い!どこにいる!!


声がしない・・・するわけない。
誰もいないんだから。

 

そう言い聞かせていた。
誰もいない誰もいない・・・
心の中で念仏のように繰り返し言い聞かせてみるものの、心拍数はものすごいことになっている。お酒のせいもあるが、きっと健康診断すると再検査間違いないレベルそれどころか再検査なしで即入院レベルだと思う。

 

雨の音が心拍数でかき消される

時間はほんの数秒だったんだと思う

静かに鼓動が聞こえる

気持ち悪い

時がゆっくりと流れた

そして誰もいないという期待は裏切られる

 

 

 

あんた・・・私の言葉がわかるの?

 


声がした。

 


それは足元から。

 

俺は・・・そこにいた声の主に驚きを隠せなかった。

なかないで


・・・ないてなんかないよ。


わたしがいなくなってもしっかりやりなさいよ


わかっているよ


わらって・・・さいごだからわらってよ


そんなこというなよ

これであうのはさいご。

 

だから・・・わらって・・・ね?
わたしといっしょにいてたのしかった?


あたりまえだろ。
だから・・・これからも・・・

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